1. TOP
  2. コラム 明治維新胎動の地 山口
  3. 田口 由香 氏

大島商船高等専門学校 准教授 田口 由香 氏 四境戦争が果たした役割

 今年2016年は、1866年(慶応2年)に起こった四境戦争から150年にあたり、山口県内各所でシンポジウムなど様々な取り組みが行われました。「四境」とは、長州藩領の四つの境目である大島口・芸州口・石州口・小倉口を指しています。戦闘地になった周防大島町や和木町で行われたシンポジウムでは、私自身もコーディネーターやパネリストとして参加させていただきましたが、大変多くの方がご来場くださり、その関心の高さを実感しました。また、パネルディスカッションでは、幕末長州藩の研究者の方々によって、様々な視点から四境戦争が実証的に論じられ、150年前に起こった戦いの意味を考える貴重な機会になりました。ここであらためて、四境戦争が明治維新に果たした役割について考えてみたいと思います。

 四境戦争の開戦からわずか一年半後、1867年(慶応3年)12月に王政復古の大号令が発せられ、およそ260年続いた徳川幕府が廃止されました。そして、翌1868年には明治改元が行われ、明治政府が万国対峙を掲げて近代国家の形成を進めていくことになるのです。四境戦争は、この日本の大きな変革にどのような影響を与えたのでしょうか。

 まず、その発端は1864年(元治元年)に起こった禁門の変までさかのぼります。禁門(または蛤御門)において長州藩と薩摩藩などとの戦闘が起こり、長州藩は御所の方向に向かって発砲したとして朝廷の敵とされます。幕府は朝廷の長州藩追討令を受けて、諸藩に長州藩への出兵を命じたのです。長州藩が恭順を示したことから一旦は解兵令が出されますが、高杉晋作らの決起によって長州藩は内乱を経て、幕府に抵抗する抗幕方針に転換しました。

 なぜ長州藩は幕府と戦おうとしたのでしょうか。開戦後、長州藩が薩摩藩と広島藩に差し出した書面を紹介したいと思います〔「慶応二年六月防長士民ヨリ薩州及ビ芸州ノ両藩ヘ差出タル書面」(『鹿児島県史料 忠義公史料』第四巻、鹿児島県、1976年)、史料は原文を読み下し、( )内に補足を入れています〕。

 まず、この書面において、長州藩は「この度の戦は毛利氏・徳川氏との私闘とは毛頭存じたてまつらず」と、四境戦争が長州藩毛利家と幕府徳川家との個人的な戦いではないことを主張しています。そして、次のように述べています。

 今日このままにて和戦止戦にあいなりそうろうては、天朝(朝廷)は依然御微力、関東(幕府)はいよいよ夷人(外国人)に屈し、国家の衰弊ますます甚だしく、この時機を失いそうろうては、恢復(回復)の期はこれあるまじくそうろう

 まだ朝廷は微力であり、幕府は諸外国に屈しているため国家の衰退が甚だしい。ここで長州藩が幕府と戦わなければ、国家を回復させるチャンスを失ってしまう。このように、長州藩は、藩存続のために戦うのではなく、欧米諸国に屈する幕府によって衰退している国家を回復するために戦うことを訴えているのです。また、このことを次のように例えています。

 今日の事は人身に疾病あるごとく、人身は国家なり、疾病は東人(幕府)なり、医師は防長(長州藩)なり、医師に任せ速やかに病根を御絶ち遊ばされざるそうろうては、他日再発しそうろう節、病人元気衰え、快気むずかしく存じたてまつりそうろう、王政の恢復、国家の存亡、この一事にかかわりそうろう

000132_g5

 長州藩を医師、幕府を国家の病気の原因に例えて、医師である長州藩が幕府と戦うことで国家の病気を回復させると表現しています。そして、長州藩が幕府と戦うことは、国家の存亡と、将来的な王政の復古にかかわるとしているのです。

 四境戦争は開戦3か月後に休戦協定が締結されますが、実質的には長州藩の勝利で終結します。その翌年、王政復古によって欧米諸国に屈する幕府は廃止され、そして明治政府が欧米諸国と肩を並べる万国対峙を掲げ、近代国家形成に着手しました。つまり、医師である長州藩の治療(四境戦争)は、国家の病気回復に効き目があったとみることができるのです。

 2018年には明治改元150年を迎えます。さらに幕末長州藩研究が進展し、県民の皆さんにとって、長州藩が明治維新に果たした役割を再確認する機会になることを期待しています。

プロフィール

大島商船高等専門学校准教授 田口 由香 氏
出身 1976年 山口県下関市生まれ
主な経歴 ・下関市立大学経済学部経済学科卒
・広島大学大学院教育学研究科(学術博士)
・山口県史編さん室 明治維新部会専門委員
主な編著書 2009年
「高杉晋作 上海渡航から奇兵隊結成へ」
『幕末維新人物新論』笹部昌利編(昭和堂)
2008年
「文久二年藩是転換までの長州藩の動向」
『山口県史研究』第16号
2006年
「木戸孝允」他
『図説萩・長門の歴史』樹下明紀編(郷土出版社)
2015年
「薩長同盟締結と桂小五郎」
『歴史読本』(KADOKAWA) 3月号